業界研究:メガベンチャー

リクルートの買収企業から見るグローバル志向の経営戦略とM&A戦略

リクルートは2009年以降M&Aによる海外進出を開始し、2012年に峰岸氏が代表取締役社長に就任して以降はさらにその動きを加速させた。この期間で使った金額は5000億円近くに上る。直近では、米国のGlassdoorを買収した。今回は対象には入っていないが注目の買収だ。

2020年までに人材領域でグローバルNo.1に、2030年までに全事業領域においてグローバルNo.1となることを長期ビジョンに掲げているため、このビジョン達成のために積極的なM&Aが行われた形だ。

この海外展開により売上高は5年で2倍以上に膨らみ、人材サービス会社として国内で1位、世界では5位のシェア(2016年)を獲得するに至った。

しかし、世界1位のシェアを誇るThe Adecco Groupとは売上高において倍以上の差があり、その背中はいまだ遠いのが現状である。それではリクルートは今後どのような経営戦略によりグローバルNo.1企業を目指していくのだろうか。

リクルートの現状から、今後の経営戦略を探っていこう。

マッチングがコンセプトのリクルート

リクルートの事業に共通するコンセプトはマッチングである。現在リクルートはビジネスセグメントを「HRテクノロジー」「メディア&ソリューション(人材領域 / 販促領域)」「人材派遣」の3つに分けているが、大きくは人材サービスに係る人材領域とそれ以外の販促領域の2つに分かれる。

人材領域では、人材派遣事業や人材斡旋業、またそれらをより効果的かつ効率化なものにするテクノロジーの開発を行っている。

販促領域では、住宅や、旅行、飲食、美容など幅広い領域の事業を行っている。

一見バラバラの事業への多角化戦略に見えるが、実は根底にはマッチングというコンセプトが存在している。人材領域では企業と労働者を、販促領域では企業と個人を不和なく結びつけることを目的としているのである。

人間社会では常に必要となるこのマッチングを軸としたプラットフォームを確立し、GoogleやAmazon、Facebook、Appleなどといった世界的IT企業と肩を並べることを目指している。

グローバルNo.1を目指すための成長戦略

リクルートは長期ビジョンとして、2020年までに人材領域で、2030年までに全事業領域でグローバルNo.1企業となることをあげている。このビジョン達成のために、国内と国外では異なる成長戦略を立てている。

既に高いシェアを獲得している国内事業では、持続的な成長のために、クライアント基盤/カスタマー基盤の拡大強化による競争優位性の向上と、新規事業開発による複合的な事業ポートフォリオの構築を目指している。

新規事業としてはITを活用した新たな成長分野の創出を狙っており、特に「中小企業向け業務支援分野」「ヘルスケア産業」「教育産業」に力を入れている。

一方海外事業では更なる成長を実現するために、国内でのノウハウ移管による既存事業の成長強化と、積極的なM&Aによる事業基盤の拡大強化を目指している。特にM&Aに関しては長期ビジョン達成のために不可欠であり、今後も積極的に行っていく見通しであると峰岸社長は語っているように、最も重要な成長戦略の柱であるといえる。

また経営指標としては、長期的視点での利益を表すEBITDAを伸ばすことを重視している。これはリクルートが、積極的なM&Aに肯定的であることを示している。

EBITDAとは、短期で変動したり稀に発生したりする費用を無視する指標で、その増大は一般的に長期的な利益の増大や収益の改善を示すとされる。算式としては「税引き前利益+減価償却費(のれん償却額を含む)+特別損益+支払利息」で表される。

短期的に増大する減価償却費やのれん償却費を気にしすぎることなく、積極的なM&Aにより長期的に利益を増大させていくことに重きを置きたいという戦略が見てとれる。

M&Aを行った企業においてもこのEBITDAの改善を重視しており、投資による拡大期間にあるリクルートではこのEBITDAが経営の軸となっている。

成長戦略の柱であるM&Aの戦略は一体何か?

では、リクルートは具体的にはどのような戦略でM&Aを行っているのだろうか。
リクルートが行うM&Aの特徴としては、最大限のリスクヘッジ・買収後のユニット経営・迅速な実行の3つが挙げられる。

リスクヘッジについては、3つの条件が設定されている。まず投資先の選定においてはリストアップ段階で不健全な経営を行っている会社は削られる。具体的には、IRR(内部収益率)が10%を超えることを厳格な条件としている。

また投資先候補を実際に訪問して直接交渉することで、買収後のミスマッチをできるだけ防いでいる。

さらに未進出の事業を買収する際には、少額の投資から始めて海外展開の可能性を検証する段階(フェーズ1)を踏み、成功の可能性が高いと判断されれば大型投資を行って日本でのノウハウを適応し価値を最大化する(フェーズ2)、という2つの段階を設けている。以上の3つの条件により失敗のリスクを最低限に抑えている。

また買収を実行した後利益に責任を持ちながらも、現地の状況に合わせた柔軟な経営を実現するために、ユニット経営が導入されている。ユニット経営とは、買収後も経営陣はそのままとしてリクルートからチェアマンを送り、EBITDAなどを業績評価指標として設定して経営を行わせるという分社化の組織形態であり、ソニーが行ったカンパニー制に近い。

カンパニー制との相違点は、リクルートからチェアマンを送っていることで、全社的な視点を持つことや監視の強化などが実現されていることである。

そして、以上のM&Aの流れは迅速に行われる。2009年以降海外において1000億円規模のものを含むディールを20社近く成功させている。

以上がリクルートが行うM&Aの特徴である。

この特徴を武器に、自社のコンセプトとマッチングする分野でビジネスのチャンスがあると判断したら既存の枠にとらわれずにすかさずM&Aを実行していくのが、リクルートのM&A戦略といえる。

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リクルートが行ったM&Aの一覧

では、リクルートは実際にどのような案件を成功させてきたのか。以下がその一覧となっている。リクルートホールディングス公式HPの「沿革・歴史」を参照して網羅性を検証したものなので、主要なM&Aはすべて含まれているといえよう。

company事業内容展開地域
RGF HR Agent Hong Kong Limited
→RGF Hong Kong Limited
人材紹介事業(総合)アジア4か国
The CSI Companies, Inc人材派遣事業(事務・ITなど)米国
Staffmark Holdings, Inc人材派遣事業(事務・軽作業など)米国
Advantage Resourcing America, Inc
Advantage Resourcing Europe B.V.
人材派遣事業(総合)
アウトソーシング事業
米国・英国・豪州など
Indeed Inc.世界No.1の求人専門検索エンジンの運営。欧米を中心に60か国以上
Bo Le Associates Group Limited
→RGF Hong Kong Limited
人材紹介事業(若手~エグゼクティブ)アジア7か国
NuGrid Consulting Private Limited
→RGF Hong Kong Limited
人材紹介事業(エグゼクティブ)インド
Movoto LLC
→2017/12に全持分を譲渡
中古不動産情報サイト運営米国
“Peoplebank Holdings Pty Ltd
→Peoplebank Australia Ltd.”
人材派遣事業(IT)豪州、他アジア3か国
Quandoo Gmbl飲食店予約サービス欧州中心に13か国以上
“Attero
→Advantage Resourcing America, Inc”
人材派遣事業
アウトソーシング
米国
Chandler Macleod Group Limited人材派遣事業(事務・軽作業など)アジア・オセアニアなど6か国
Hotspring Ventures Limited欧州No.1の美容予約サービス欧州5か国
Treatwell
→Hotspring Ventures Limited
欧州No.2の美容予約サービス欧州5か国
Quipper教育サービス英国・日本など5か国
USG People B.V.人材派遣事業(総合)欧州で多国展開
Trust You GmbH宿泊施設口コミサービス欧米や日本など
Prehire, Inc.
→Indeed
採用アセスメントツール米国

まず2009年以降に行われた主要なM&Aはすべて海外M&Aであることが分かる。これ以前のM&Aがほとんどすべて国内M&Aであったことを考えると、2010年代はリクルートにとって大きな転換を迎えた時期であったことが分かる。

展開地域は欧州・アメリカ・アジア・オセアニアと世界各地にわたる。

またビジネスセグメントに偏りはなく、様々な分野で海外進出が行われている。

HRテクノロジーではIndeedに対する大型M&Aを実施し、買収後5年で売上が10倍以上になるなど成功を収めている。Indeedの買収後は、Prehire, Inc.の買収のようにIndeedを軸として新技術を補完する形でM&Aが行われた。

人材派遣事業、及びメディア&ソリューション人材領域では、アジア・オセアニア・欧州・北米において幅広いM&Aが行われている。既にEBITDAの改善がみられるなど、進出の可能性は実証されており、現在はUSG People B.V.の買収のように大型案件を行うフェーズ2に入っていると考えられる。

メディア&ソリューション販促領域では、欧米を中心に複数の分野で展開がなされている。飲食分野にあたるQuandoo Gmblの買収や、美容分野にあたるHotspring Ventures Limitedの買収は、既にフェーズ2の段階に入っている。

一方でアメリカにおける不動産分野、Movoto LLCの持分売却のように、フェーズ1実施後に撤退を余儀なくされたものも存在している。

さらに、新規事業領域でのM&Aも行われている。Quipperの買収は、新規事業として力を入れている「教育産業」への進出を図るものであり、既存事業の成長を目的とするその他のM&Aとは根本的に異なるものである。

海外進出後、売上高・EBITDAは倍増

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本格的に海外進出を開始した2009年以降、リクルートの売上高とEBITDAは倍以上の成長を遂げている。比例するように海外売上高比率も伸びていることから、上記のM&Aによる貢献はかなり大きいといえるだろう。また売上高以上にEBITDAが成長していることから、収益比率が改善していることがわかる。

一方で純利益はやや横ばいの状態が続いている。これは積極的なM&Aの実施によって、売上高の増加を打ち消すほどに減価償却費やのれん償却額が増大しているためだと考えられる。

しかし2018年3月期の決算よりのれん償却を行わなくてよい国際会計基準(IFRS)を適応することが決定されているため、数字上の純利益は増大することが見込まれている。

以上のような現状を踏まえ、長期ビジョン達成のためにリクルートは今後どのような経営戦略を取っていくのだろうか。

まずはリクルートの主軸事業である人材領域の経営戦略から見て行こう。

人材領域では欧米への更なる展開が行われるだろう

人材領域では海外展開の遅れがトップとの差に直結している。

以下は、世界の人材サービス会社売上高ランキングである。

company2016年売上高(US$ billions)world market share
The Adecco Group(スイス)22.55.3%
Randstad(オランダ)20.74.8%
ManpowerGroup(アメリカ)19.24.5%
Allegis Group(アメリカ)10.22.4%
Recruit(日本)9.82.2%

参照元:https://www2.staffingindustry.com/site/About/Media-Center/Press-Releases/Largest-Staffing-Firms-Globally-Achieve-190-Billion-in-Revenue

順調に売上高が伸ばし世界第五位の人材サービス会社になったリクルートであるが、世界第一位のThe Adecco Groupとはいまだに倍以上の差が開いていることが分かる。

しかしAdeccoの市場に占めるシェアは5%程度であり、世界市場は競争的な状況にあると考えられるため、リクルートがグローバルNo.1となるチャンスは十分にあるといえる。ではリクルートはどのような戦略でこの差を埋めていくのだろうか。

競合と比べて欧米でのシェアが低いリクルート

以下は、世界の人材サービス会社TOP3とリクルートの地域別売上高を比較したグラフである。

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参照元:各社のAnnual Reportより

上位三社は欧米で売上高を伸ばしているのに対し、リクルートは日本での売上高が大きな比重を占めている。すなわち現時点では欧米でのシェアの低さが、リクルートと上位他社との差に直結していることが分かる。

そのためリクルートがグローバルNo.1のシェアを獲得するためには、①欧米でのシェアを拡大する②日本でのシェアをさらに拡大する③その他の地域でのシェアを拡大する、という三つの戦略が考えられるだろう。

シェア拡大のチャンスは欧米日にあるか

では次に人材サービス市場の状況を見てみよう。以下は人材サービス市場における国別のシェアをあらわしたグラフである。

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参照元:https://www.statista.com/statistics/495154/staffing-industry-market-share-country/

人材サービス市場はアメリカ、日本、欧州などの成熟した市場で規模が大きく、GDPとは比例していない。そのため、近年経済大国となった中国や新興国のインドやブラジル、中東などの市場はGDP程大きくないことが分かる。

つまり、欧米日以外の地域でのシェア拡大は、グローバルNo.1企業を目指すにあたって短期的にはインパクトが小さい。また欧州を労働者移動の自由を理由として単一市場としてとらえるのであれば、欧米日で世界市場シェアの80%以上を占めることが分かる。

そのため欧米日でシェアを拡大することが、グローバルNo.1を達成へのインパクトが大きい。

では次に、欧米日の市場の状況を見てみよう。

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まずアメリカは競争的な市場であり、リクルートにもまだまだシェア拡大のチャンスはあるだろう。Allegis Groupがリクルートの4倍以上のシェアを獲得しているが、それでも市場に占める割合は6%程度である。

次に世界市場シェア2位である日本でのシェア拡大には相当のコストがかかるだろう。日本ではリクルートがリーディングカンパニーであるが、独占的なシェアは獲得しておらず、寡占的な市場となっている。シェア2位のパーソルホールディングスや3位のパソナグループも拡大を続けており、激しい競争が続いている。

また欧州では、イギリスのようにリーディングカンパニーのシェアが5%程度の競争的な市場もあれば、フランスのように22%程度を占める寡占的な市場もあり、両者が混在している。リクルートのシェアはどの市場でも低いが、競争的な市場であるイギリスなどではシェアを拡大できる可能性が高いだろう。

人材領域では欧米への更なる展開が行われるだろう

以上の自社 / 競合 / 市場の状況を踏まえ、リクルートは2020年までに人材領域でグローバルNo.1になるという目標を達成するために、どのような戦略を取っていくのか。考えられる戦略は更なる積極的な海外策による欧米でのシェア拡大だ。

アジアや南米などは将来的には魅力的な市場であるため先行者優位獲得への投資が必要となるが、現状は欧米日に匹敵する市場とは言えず、2020年までという短期でのグローバルNo.1実現には直結しない。また日本でのシェア拡大にも限界があるため、必然的に市場規模の大きい欧米での展開が必要になる。

また欧米の中では、アメリカやイギリスなどの規模が大きくかつ競争的である市場に優先的に展開するだろう。フランスなどの寡占市場において、シェアの低いリクルートがシェアを拡大していくには、イギリスなどの競争的市場と比べて莫大なコストがかかるためである。

以上より、人材領域においては長期ビジョン達成のためにアメリカや、イギリスを軸とした欧州で、M&Aを中心とした海外展開策が行われるのではないかと思われる。実際に2016年には欧州で高いシェアを持つ世界第12位のUSG People社を買収しており、今後その動きはますます加速すると思われる。

販促領域でも今後海外展開が続いていく

ここまでは、リクルートの主要事業である人材領域について見てきた。では次に販促領域を見て行こう。

リクルートは、飲食店予約サービスの”Quandoo”や、美容予約サービスの”Hotspring”、宿泊施設口コミサービスの”Trust You GmbH”への大型M&Aを実施している。住宅分野での大型投資も志向しており、これらの分野では2030年までにグローバルNo.1を実現するために、今後も大型投資を行い日本でのノウハウを移管する「フェーズ2」が続くと思われる。

すなわち販促領域においても、2030年までにグローバルNo.1を達成するために、更なる海外展開が行われていくだろう。

新規事業領域でも積極的なM&Aが行われるか

最後に、新規事業領域についてはどうだろうか。

リクルートは、「中小企業向け業務支援分野」「ヘルスケア産業」「教育産業」などの分野での新規事業開発を目指しており、その一環として2015年には教育サービスを手掛ける”Quipper”へのM&Aを実施した。今後もこれらの分野への拡大の可能性を模索し、スタートアップやベンチャー企業への投資や事業設立が行われていくと思われる。

また峰岸社長が「事業会社をやっているんで、純投資してもしょうがないので、ファイナンスリターンというよりは、最終的には100パーセントジョインしていただきたいと思います。」引用:https://logmi.jp/271273

と述べているように、その形式としては単なる投資にとどまらず、子会社化を伴うM&Aという形である可能性が高いだろう。

海外での裁量権のある仕事や、新規事業設立に携われるリクルート

以上のように、リクルートは海外進出や新規事業へのM&Aを積極的に行ってきており、今後はさらにその動きが加速していくと予測される。

リクルートへの転職

リクルートは転職後にPMI等に入り、買収後の事業拡大で活躍している人もいる。リクルートに興味がある人はリクルートの様々なカンパニーをご覧になってほしい。

リクルートへの転職の場合は、ビズリーチをつかうとよい。

リクルートが運営するキャリアカーバーでもよい。リクルートはイメージがつかないかもしれないが、買収先との仕事になると海外出張も多く、世界中をとびまわる社員もいいる。

今日は以上だ。

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